堂本晃聖 
■はじめに：パン業界の現況
パン市場は成長中です。
家庭でのパン支出が増え、流行の10円パン、グリルドチーズホットサンド、パンスイス、シュプリームクロワッサンなど、個性的なパン屋が人気を集めています。
しかし、競争も激しく、原材料費の上昇など厳しい面もあります。この記事では、パン屋経営の成功のポイントを紹介します。
まずはパン業界の夢と現実から。
メリット(夢)
- 自分の夢の店を実現
・個性を反映: 自分だけの特別なレシピや店のコンセプトを生み出す自由があります。
独自のパンの味や形、店のデザイン、顧客体験を通じて、個性を表現できます。
・創造性の発揮: 新しいパンの種類を開発したり、季節ごとの限定商品を提供するなど、創造性を存分に発揮できます。
・地域社会との繋がり: 地元の人々との関係を築き、地域社会の一員として貢献できます。
2.小規模からのスタートが可能
・低リスクでの開業: 自宅を利用することで、初期投資を抑え、リスクを最小限に抑えることができます。
・柔軟な営業形態: 自宅での営業により、営業時間やメニューの調整が容易になります。
・家族との時間: 自宅での営業なら、家族との時間を大切にしながら仕事ができます。
- パンブームの恩恵
・市場の成長: パンへの支出が増加し、市場が拡大しているため、新規参入のチャンスがあります。
・トレンドを取り入れた商品開発: 新しいトレンド商品を取り入れることで、顧客の関心を引き、売上を伸ばすことができ
ます。
・SNSでの露出: トレンド商品はSNSでの共有が多く、無料での宣伝効果が期待できます。
デメリット(現実)
- 高い開業資金
・設備投資の負担: 高品質なオーブンや発酵器などの導入には大きな投資が必要です。
・維持費の負担: 設備の維持・更新にも継続的な費用がかかります。
・資金調達の難しさ: 銀行からの融資を受けるためには、しっかりとしたビジネスプランが必要です。 - 低い客単価
・高い集客努力: パンの単価が低いため、利益を上げるには多くの顧客を獲得する必要があります。
・競争の激化: 他のパン屋やスーパーマーケットとの価格競争が発生しやすいです。
・売上の不安定性: 顧客の嗜好の変化や季節要因により、売上が不安定になりがちです。 - 資格と経験が必要
・専門知識の必要性: パン製造には専門的な知識と技術が必要で、これらを身につけるためには時間と労力がかかります。
・資格取得のハードル: 「食品衛生責任者」や「パン製造技能士」などの資格取得には、勉強と試験が伴います。
・実務経験の重要性: 実際の店舗での経験を積むことで、経営に必要なスキルや顧客対応能力を養うことができます。
成功への道
パン屋開業は夢を実現する素晴らしいチャンスですが、市場の理解、資金計画、人手不足への対策など、成功には様々な要素が関わってきます。
自分の店を持つことの喜びと同時に、ビジネスとしての現実もしっかりと把握しましょう。
パン屋開業の成功と失敗の分かれ道
パン屋開業の現実
パン屋は開業しやすいけれど、継続は難しいビジネスです。
日本全国に約10,000店舗のパン屋がありますが、近年は廃業する店も増えています。
原材料の価格上昇など、パン業界は厳しい状況に直面しています。
- パン屋業態の現状と将来展望
パン屋業界は依然としてブームを続けていますが、市場の嗜好と流行は変化し続けています。
最近では、高級食パン専門店のような特化した業態が増えており、市場における価格帯の二極化が顕著になっています。
一方で、低価格帯のパンも依然として人気があり、消費者の選択肢は多様化しています。
このような市場環境の中で、今後成功を収めるには、独自性と差別化を打ち出したコンセプトのある店舗が求められるでしょう。
店舗デザイン、商品ラインナップ、顧客体験の提供など、複数の側面で革新的なアプローチが重要になります。 - 資金計画の戦略とリスク管理
パン屋を開業する際、初期投資として約1000万円から2000万円が必要とされています。
この資金は、店舗の設備投資、初期の運転資金、スタッフの採用費用などに充てられます。
パン屋の平均客単価は比較的低いものの、客数の多さが特徴です。
開業後の初期集客に成功したとしても、継続的なリピーターを獲得し、安定した収益を確保するためには、十分な運転資金の確保が不可欠です。
さらに、売上が当初の想定を下回った場合の対策を含め、柔軟かつ実現可能な資金計画を立てることが重要です。 - 人手不足と労働環境の改善
現在、飲食業界全体で人手不足の問題が深刻化しています。
特にパン屋のような小規模な店舗では、スタッフ不足が直接的に労働環境の悪化につながり、これが店舗閉鎖のリスクを高める要因となっています。
この問題に対処するためには、労働効率を高める工夫が求められます。
例えば、作業の自動化、シフト管理の最適化、スタッフのスキルアップトレーニングなどが挙げられます。
また、従業員の満足度を高め、長期的な雇用を促進するための取り組みも重要です。
パン屋開業への道: 経験がカギを握る
パン屋を開く夢を実現するためには、まずは現場での経験が欠かせません。
パン屋で働くことで、一日の流れや接客のコツなど、実務でしか学べない貴重な知識を得ることができます。
実際にパン屋で働いたことがない方は、開業前にその経験を積むことをおすすめします。
複数の店舗で働くことで、様々な接客スタイルや商品の展示方法、営業戦略など、さまざまな経営アプローチを学べます。
これらの経験は、自分の店を開く際に大きな力となります。
また、多くの店舗での経験は、パン屋の知識とスキルの幅を広げることにもつながります。
パン屋での仕事は、技術や知識を身につけるだけでなく、人脈を築く絶好の機会でもあります。
オーナーや業者、顧客との関係を築くことで、将来のビジネスに役立つ貴重なネットワークが生まれます。
1. スクール
製パンスクールで学ぶことも一つの手です。ここでは、パン作りの専門技術はもちろん、接客マナーや経営の知識も得られます。特に、開業に向けて必要なスキルや知識を網羅的に学べるため、ビジネスの基盤をしっかり築くことができます。
2.スキル
開業に向けて、メニューの作り方やパン作り以外の業務、仕入れ先の選定、人材管理、経理、マーケティングなど、経営に必要なスキルを身につけることが大切です。さらに、調理器具の使い方や店の回転率、客単価を把握することも重要です。
単独でのパン屋開業:メリットとデメリット
パン屋を開業する際、自分だけのお店を持つことは多くの人にとっての夢です。ここでは、単独でパン屋を開業する方法のメリットとデメリットをご紹介します。
メリット：自分だけのお店を実現
単独店の最大の魅力は、自由度の高さです。お店のデザインからメニュー、家具の選択に至るまで、全てが自分のアイデアで形にできます。さらに、素材選びや味へのこだわりも、自分の理想通りに追求可能です。これは、自分だけのオリジナルなパン屋を実現したい方にとっては大きな魅力となります。
デメリット：全ては自己責任
しかし、単独での開業は、その自由度と引き換えに、多くの責任を伴います。開業手続きから資金調達、物件の選定、設備や食器の購入、仕入れ先の選定、スタッフの雇用など、全てのプロセスを自分自身で管理しなければなりません。また、お店の宣伝やマーケティングも自分で行う必要があります。これらは時間と労力が必要な作業であり、開業の準備段階から多くの挑戦が伴います。
フランチャイズでのパン屋開業：メリットとデメリット
フランチャイズを選ぶことは、パン屋開業の一つの方法です。
ここでは、フランチャイズでの開業の利点と注意点を簡潔に解説します。
メリット
特に初心者や経験が少ない方にとっては、成功への道を切り開く手段となりえます。
- 未経験者でも開業が可能
充実した研修プログラム：フランチャイズでは、店舗運営に必要なすべての側面にわたる研修が提供されます。これには、パン作りの基礎から店舗管理、顧客サービス、マーケティング戦略までが含まれ、実際の店舗運営を想定した実践的なトレーニングが行われます。
徹底したマニュアル化：マニュアルは、日々の業務をスムーズに進めるためのガイドラインを提供します。仕入れから調理、店舗デザイン、衛生管理まで、細かい部分にわたって手順が記されているため、初心者でも段階を追って学ぶことができます。 - 資金調達のしやすさ
融資の容易さ：フランチャイズチェーンはしばしば、信頼性の高いビジネスモデルと見なされます。このため、金融機関からの融資が受けやすくなる傾向にあります。これは、開業資金を十分に自己資金でまかなえない場合に特に有利です。
初期投資の削減：フランチャイズの場合、本部が大量仕入れを行うことでコストを削減できるため、内装や装備、食材の初期費用を抑えることが可能です。これにより、個人で店舗を立ち上げる場合よりも、低いコストで開業することができます。 - ビジネスリスクの軽減
確立されたビジネスモデル：フランチャイズ本部が提供する確立された運営モデルを利用することで、ビジネスリスクを大幅に軽減できます。実績のあるビジネス戦略を利用することで、市場での失敗のリスクが減少します。
本部のサポート：フランチャイズ本部は、マーケティングや販促活動、店舗運営に関する相談に応じます。加盟店が直面する問題や挑戦に対して、経験豊富な専門家のサポートを受けることができます。 - 継続的なサポート
長期的な関係：フランチャイズ本部は、加盟店の売上向上と経営の安定化を目指して、継続的な支援を提供します。これには、新しいメニューの開発、販売戦略の改善、スタッフトレーニングなどが含まれます。
運営の手間の軽減：仕入れや在庫管理、食材の配送など、日々の業務の多くが本部によって効率的に行われます。これにより、加盟店はより顧客サービスや店舗の改善に集中することができます。
デメリット
フランチャイズでの開業は、多くのサポートと共に一定のコストと制約が伴います。
開業を検討する際には、これらのデメリットを理解し、慎重に判断することが重要です。
- 加盟金とロイヤリティの支払い
継続的な費用負担：フランチャイズに加盟する際、様々なサービスやノウハウを利用するために「ロイヤリティ」を定期的に支払う必要があります。売上に関わらず、家賃や光熱費のほかにこの費用が発生するため、経営上の重荷になり得ます。
初期費用の多様性：加盟金は契約時に一括で支払う費用で、小規模な店舗では約100万円、大規模な店舗では300～500万円程度が相場です。ただし、加盟金が不要なフランチャイズも存在します。 - 店舗取得費用とその他の費用
店舗設立に必要な投資：物件の取得や内装、設備、消耗品などの費用が必要です。加盟金を含め、開業資金は通常1,000万円以上が必要になることが多いですが、場合によっては本部が一部を負担することもあります。
ロイヤリティの支払い：ブランド使用権やサポートを受けるために、売上の4～5%を毎月支払うことが一般的です。しかし、月額固定やロイヤリティ不要のオプションを提供するフランチャイズもあります。
追加費用：研修費や開業準備金など、予期せぬ追加費用が発生する可能性もあります。 - 経営の自由度の制限
・経営の自由度が限られる
創造性への制限：フランチャイズでは、ブランドの統一性を保つために、オリジナルメニューや独自の販促活動など、本部の方針と異なる行動に制限がかかります。地域の特性や顧客のニーズに合わせた柔軟な対応が難しくなることがあります。
個人の裁量が制約される：自分のアイデアを活かして店舗を運営したい場合、フランチャイズの規定によって制限を受けることが多いです。
・ブランドのリスク
ブランドイメージの影響：フランチャイズの強みはそのブランド力ですが、他の加盟店の問題が自店にも波及する可能性があります。一つの店舗での問題が、ネットで広がり、全店舗の評判に影響を与えるリスクがあります。
・契約上の制約と義務
契約解除時のペナルティ：契約期間中に契約を解除する必要が生じた場合、違約金の支払い義務が発生することがあります。
競業避止義務と守秘義務：契約終了後も、フランチャイズ本部のノウハウが漏れることを防ぐため、同業種での営業を禁止する「競業避止義務」が設定されている場合が多いです。また、加盟によって得た情報は守秘義務が適用されます。
ボランタリーチェーン（VC）
ボランタリーチェーン（VC）とは、自由度の高い経営スタイルを採用する事業形態です。
加盟店が協力して組織を形成し、共同で本部を運営します。
このシステムでは、店名、内装、看板デザイン、価格設定など、経営者が個々の店舗に合わせて自由に決めることができます。
ボランタリーチェーンとフランチャイズの共通点は、どちらも「本部」と「加盟店」の二つの構成要素から成り立っていることです。両システムとも、加盟店は本部から商品を仕入れ、余計なコストがかかりません。
しかし、フランチャイズとは異なり、ボランタリーチェーンでは加盟店同士が協力して本部を形成し、上下関係ではなく平等な関係にあります。また、店舗の運営においても、ボランタリーチェーンは個々の事業者の個性を活かすことができる点が特徴です。規則やノルマも比較的緩く、ロイヤリティは低価格か、場合によっては不要です。
この経営スタイルは、個性豊かな店舗運営を目指す事業者に適しており、顧客に独自の経験を提供する機会を与えます。ボランタリーチェーンは、柔軟な経営と共同運営のバランスを取りながら、加盟店の成功を支援します。
ボランタリーチェーン（VC）は、店舗経営における自由度が高く、独自性を追求しやすいビジネスモデルです。主なメリットには以下のようなものがあります。
- 独自性の追求
ボランタリーチェーンでは、各加盟店が自身のアイデンティティを生かした店舗運営が可能です。
これは、特に地域性を重視する事業者や、独自のコンセプトを持つ店舗にとって大きなメリットです。
・地域密着型の運営: 地元の文化やニーズに合わせたメニューやサービスを展開することで、地域住民との強い結びつきを築くことができます。たとえば、地元の食材を活用したメニュー開発や、地域の祭りやイベントに合わせた特別なプロモーションを行うことが可能です。
・ブランディングの自由度: 加盟店は自店のブランドイメージやコンセプトを維持しながら、ユニークな内装や看板デザインを採用できます。これにより、個店の特色を際立たせ、顧客に記憶に残る独特な体験を提供できます。
- 仕入れコストの軽減
中央集権的な仕入れシステムを採用することで、加盟店は仕入れコストを大幅に削減できます。
・大量仕入れによるコストダウン: 本部が大規模に商品を仕入れることで、単価を抑えることができます。
これは、特に原材料や包装材料などのコストに大きな影響を与え、利益率の向上に直結します。
・効率的な供給チェーン管理: 本部による一元管理により、供給過多や不足によるリスクを抑えることができます。
また、季節やトレンドに応じた効率的な商品管理が可能になり、在庫過剰や廃棄リスクを低減できます。
- 情報共有と相互支援
ボランタリーチェーンのもう一つの大きな特徴は、加盟店間の密な情報共有と相互支援です。
・POSシステムによるデータ共有: リアルタイムでの売上データや顧客動向の分析が可能になります。
これにより、市場の変動に迅速に対応し、成功事例や失敗例の共有を通じて全体のサービス品質を向上させることができます。
・経営ノウハウの共有: 加盟店間での経験や知識の共有により、特に新規参入者が経営のノウハウを学ぶことが容易になります。加盟店同士が協力し合うことで、地域全体のサービスレベルや顧客満足度を向上させることができます。
ボランタリーチェーンは、自由度の高い経営と効率的な運営を可能にし、加盟店それぞれの個性と強みを最大限に活かすことができるビジネスモデルです。これらのメリットを生かし、競争の激しい市場での成功を目指す事業者にとって、魅力的な選択肢となり得ます。
ボランタリーチェーン（VC）を選ぶ際、いくつかのデメリットも理解しておく必要があります。
これらは特に、経営力や市場での知名度に関連しています。
- 経営力の必要性
ボランタリーチェーンは、経営者の自主性と責任が強く求められるビジネスモデルです。
問題解決能力: 自由度が高い分、経営上の問題に直面した際、自力で解決策を見つけなければなりません。
これには、市場分析、財務管理、人材管理など、経営のあらゆる側面で高度なスキルと知識が必要です。
経営戦略の策定: 短期的な利益追求ではなく、長期的なビジョンに基づいた戦略を立てる必要があります。
これには、競合分析、市場ニーズの理解、ブランドポジショニングなど、綿密な計画が求められます。
経験と学習: 加盟店間の情報共有は有益ですが、特定の問題に対する具体的な解決策を見つけるのは容易ではありません。
新しい経営者は、他の事業者や専門家からのアドバイスを積極的に求める必要があります。
- 知名度の問題
ボランタリーチェーンの知名度は一般的に低く、新規顧客の獲得が困難です。
マーケティング戦略: 既存のブランド力を活用できないため、独自のマーケティング戦略が必要です。
地元メディアへの露出、地域イベントへの参加、SNSを活用したデジタルマーケティングなど、多角的なアプローチが求められます。
口コミとリピーターの重要性: 地域社会に根差し、顧客からの信頼を築くことが重要です。
質の高い製品やサービスを提供し、顧客からの良い口コミを得ることで、間接的にブランドの認知度を高めることができます。
コミュニティとの連携: 地域コミュニティとの連携を深めることで、ブランドの認知度を高めることができます。地元の祭りやイベントへの参加、地域のチャリティー活動への貢献など、地域社会との良好な関係を築くことが重要です。
ボランタリーチェーンは、自立した経営と市場での存在感の構築に大きく依存しています。
これらの課題に対応するためには、事前の準備と計画、そして継続的な努力が必要です。
適切に対処すれば、これらの課題は長期的なビジネス成長の礎となり得ます。